性転換手術を承認
埼玉医大倫理委、同意書など条件に
今夏にも女性患者に実施
生まれながらの肉体的な性に強い違和感を持ち別の性になることを望んでいる「性同一性障害」の患者に対する性転換手術を検討していた埼玉医科大学は12日、倫理委員会(委員長・山内俊雄同大教授)を開き、条件付きで手術を承認した。早ければ今夏にも、正当な医療行為として国内初の性転換手術が実施される見通しとなった。
倫理委は、性同一性障害に悩む患者の診断や治療をしている同大の専門医チーム「ジェンダークリニック委員会」(委員長・安倍達同大教授)が先月30日に申請した東北地方に住む女性患者(30)の手術の実施を審議。この女性は同大で長年にわたり、心理的な不安を取り除く精神療法や男性ホルモンを注射するホルモン療法を受けてきた。
手術を認めるにあたり倫理委は条件として、日本精神神経学会が安易な手術を防ぐため97年5月にまとめた指針に基づく同意文書の作成や術後の精神的なカウンセリングなどを掲げた。今後、学長に申請して許可を得てから、手術の準備に入る。卵巣の摘出など手術の完了には半年程度かかる見込み。
倫理委は96年に「性転換手術は正当な医療行為だが条件が未整備」とする答申を出した。同大はその後、学内外の形成外科や精神科医からなるジェンダークリニックを設置、手術の是非を検討してきた。
社会復帰へ法整備急務
解説
埼玉医科大の手術承認は、国内に数千人いるとされる性同一性障害の患者にとってはとりあえす朗報だ。ただ術後に就職などの社会復帰が十分にできるかという課題もあり、精神的な不安を解消する仕組みや性転換した人を社会的に認める法律の整備が急がれる。
手術後の最大の問題は戸籍。現行の戸籍法では性別を変更できず、就職や結婚などの社会的な生活に支障が出てくる恐れもある。先行する欧米では術後の性になじめず自殺したり、遺族が手術を行った医者を訴えるケースもある一方、法的に性転換した人の性別変更や結婚を認める仕組みが整っている。
69年に性転換を望む男性からこうがんを摘出した医師が優生保護法違反で有罪判決を受けた裁判では、性転換手術を認める条件として「手術を受けた人の社会的生活が保障されること」が挙げられた。今回倫理委は医学的な手順を踏んでいるものの、日本の法的な整備は遅れており、「まだ手術実施は早すぎる(ある私立大学の外科医)という慎重な意見も根強い。
性同一性障害
持って生まれた肉体的な性と、自分が属すると考える心理的な牲とが一致せず苦しむ状態。原因ははっきりしていないが、生物学的な要因も指摘されている。患者数は欧米の調査では男性で2万〜3万人に1人、女性で10万〜9万人に1人と言われ、日本でも同程度の割合と推定される。ただ、外科手術を望む患者はそれほど多くないと見られる。
1998/5/13
日経新聞
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