理解されず『苦しかった』

性転換待つ女性 2歳のころから『私は男』

埼玉医大(埼王県毛呂山町)の倫理委員会が、東北地方の女性(30)の性転換手術実施を承認したが、この女性は12日までの東京新聞の取材に対し「もっと早くできるかと思っていたのでようやく、という思い。でも手術台に上がるまでは安心できない」と心境を語った。

この女性は2歳のころから「自分は男性」という意識で暮らしてきた。赤いランドセルやスカートが大嫌い。「甲高い声がいやで、金ぐしでのどをひっかき声帯をつぶしたこともあった」という。

だが、そうまでして自分の性に違和感を持つ苦しみを、周囲はなかなか理解できなかった。「『おかしい』『変だ』で片付けられた。目に見える病気なら気にしてくれたろうに。本当に苦しかった」という。

ある日、埼王医大の原科孝雄教授(形成外科)の性器再生手術の記事を雑誌で見つけ、連絡。治療はここから始まった。だが「2年ぐらいで何とかなるのかなとも思っていた」ため、なかなか進まない事態に、一時は「外国での手術も頭をよぎった」という。「でも海外では術後、自殺した人もいる。それを考えるとやはり日本がいい」。支援組織などの動きも徐々に高まってきた。

専門医らの医療チーム「ジェンダー委」などの発足は、「先生たちの努力のおかげ」と評価する。そして「私たちのような人が特別視されず普通に暮らせるように、社会の理解が深まってほしい」と訴えた。

重要な一歩、慎重に

原科季雄・埼玉医大総合医療センター形成外科教授の話

率直に感慨深い。手術自体は欧米でかなり前から行われており技術的な問題はない。公認された医療としては国内初の重要な一歩なので、慎重に進めたい。倫理委員会に申講してから3年かかったが、脳死臓器移植などの問題と比べれば、かなり短時間で結論が出たと思う。

戸籍問題 術後のケア 社会全体で体制づくりを

解説

埼玉医大の倫理委員会が12日、性同一性障害に悩む女性に対して、男性に転換するための外科手術を行うことを認めたことは、同じ障害に悩む人々にとって大きな朗報である。というのも「生物学的な性(セックス)」と「心理的・社会的な性(ジェンダー)」の不一致は、一般には病気扱いされず、つい最近までは医療機関でも相手にされなかった。それが、患者の悩みをいっそう深刻にしていた。倫理委がこの障害を「病気」と認定し、その患者の治療は「正当な医療行為」であると明言したことで、患者の精神的な負担の軽減は、計り知れないだろう。だが、今回の承認は、性同一性障害の問題への取り組みの第一歩にすぎない。性転換後の戸籍、身分証明書の性別をどうするかなど、課題が山積みである。また、米国では性転換を受けた患者の自殺率が高いとのデータが出されており、手術後の精神的な支えが不可欠だが、そうした体制は不十分なままだ。これらは、一大学で対応できる問題ではない。今後さらに患者が増えるとみられる以上、法曹界を含め、早急に社会全体で受け入れ体制を検討することが必要だ

1998/5/13
東京新聞
著作権は東京新聞社に帰属します
性同一性障害NEWS

ジェンダークリニック
[HOME]