性転換手術を承認
性同一性障害 医療では国内初
「精神面ケア」条件
埼玉大倫理委
自分の心と体の性が一致せず、身体的に違和感を持つ「性同一性障害」の患者を治療している埼玉医科大(埼玉県毛呂山町)の倫理委員会(委員長・山内俊堆精神科教授)は12日、女性患者(30)の性転換手術について、術後の精神的サポートをより明確にするなどの条件つきで承認した。国内初の承認で、早ければ今年夏にも、女性患者に対し、医療行為としての性転換手術が行われる。「性同一性障害」に悩む患者は数千人いるとみられており、同大の手術承認は、波紋を呼びそうだ。
女性患者の性転換手術は同大の性同一性障害に関する医療チーム「ジェンダークリニック委員会」(安倍達委員長)から倫理委員会に許可申請が出ていた。
手術が予定される患者は3歳ごろから自分が女性であると認識できず、社会的には長く男性として暮らす一方、同大で6年前から精神治療やホルモン治療を受けてきた。
性転換手術については同大倫理委が平成8年、この女性を含む2人の患者の症状を病気としたうえ、手術は「正当な医療行為」と認定。翌9年には、日本精神神経学会が同障害の診断と治療のガイドラインを策定し、厚生省も医療行為と認める見解を発表した。
ガイドラインでは精神カウンセリングとホルモン治療を経て、それでもなお強い違和感を訴える患者に最終的な治療手段として性転換手術を行うこととしている。また手術の適否には治療判断の正確さが求められることから、手術は精神科や形成外科など複数の専門家から成る医療チームを備えた医療機関での実施に限定することなどを定めている。
同大では、この患者に一連の治療を施すとともに昨年、正式に「ジェンダークリニック委員会」を発足させ、治療を継続しながら手術の適否を話し合ってきた。その桔果、手術の必要性を認めたため、4月30日付で倫理委に手術承認を求め申請していた。今回、倫理委は同委員会の診断・治療がガイドラインの条件をほぼ満たしていることから「患者の治療には手術が必要」と判断、承認に踏み切った。
山内委員長は同委員会の申請内容について「基本的には診断と治療の段階を踏んでよく検討されている」と評価したうえで、今後、患者への術後の精神的サポートやインフォームドコンセント(説明・同意)などを充実させ、近く東博彦学長に答申する予定。学長が認めれば正式に手術にGOサインが出される。(社会面に関連記事)
■性同一性障害 自分の性別を認識する「心」と「身体」が一致しない病気のことで、アメリカのデータでは、成人でこうした性同一性障害から、男性から女性への転換を望んでいる人は3万人に1人、その逆は10万人に1人いるといわれている。
実際の性転換手術では、交通事故などで損傷した部位の再建手術の技術が応用され、まず、乳房の切除、卵巣や子宮などの摘出、また男性器形成の準備として尿道変更手術が行われる。これらの手術がスムーズにいった場合、約半年後に患者本人の上腕部などから血管や神経ごとに取った皮膚や皮下組織で男性器を形成する。生殖機能はない。「性転換」といっても外科手術で外見上の特徴を変えるだけで、生物学的な「性」を転換するわけではなく、戸籍上は元の性別のまま。しかし、治療にあたる埼玉医科大総合医療センター形成外科の原科孝雄教授は「患者にとって男性器は男性としての性を認識する象徴。したがって心と身体のアンバランスを埋めることで人間性の回復に手を貸すものと思う」と性転換手術の意義を語っている。
1998/5/13
産経新聞
著作権は産経新聞社に帰属します
性同一性障害NEWS
ジェンダークリニック
[HOME]