女性患者 性転換手術を承認

埼玉医大倫理委 国内初、今夏にも実施

生まれながらの性に強い違和感を持ち、別の性になりたいと悩む「性同一性障害」患者の性転換手術の是非を討議していた埼王医大(埼玉県毛呂山町)の倫理委員会(山内俊雄委員長)は十二日、申請が出されていた女性患者の性転換手術について「手術後の精神面でのサポートで適切な対応をする」一との条件付きで承認した。欧米やアジア各国で認められている性転換手術は、国内では旧優生保護法(母体保護法)の壁もあってタブー視されてきたが、この日の承認で、今夏にも正式な医療行為として国内初の手術が実施される見通しとなった。

性転換手術については、同大倫理委が1996年7月、手術を「正当な医療行為」と容認した。これを受け、日本精神神経学会の特別委員会が、診断と治療についてのガイドライン(指針)を作成。その中で、手術は生殖機態を失わせるなど「不可逆性」があるとして、精神的カウンセリング、性ホルモン投与を経ても違和感が解消しない場合に限った「最終段階の措置」と位置づけ、(1)年齢は20歳以上(2)希望する反対側の性で1年間以上日常生活を体験してみる(3)患者は手術の影響を十分に理解し実施に文書で同意している−などを条件として挙げている。

同大倫理委は、今回のケースについて、既にこれらの条件をクリアしているものと判断したが、欧米の症例から、手術後に後悔して自殺するケースもあるとの報告を重く受け止め、「術後の精神面でのサポートの必要性を条件として盛り込んだ。倫理委は今週中にも、同大学長に正式な答申を出すという。対象となる患者は、男性への性転換を望んでいる30歳前後の女性。卵巣摘出と男性器の形成手術を受けることになる。

戸籍や婚姻など様々な課題

解説

性転換手術が埼玉大倫理委の承認で医療行為として実施される見通しとなったが、戸籍、パスポート、保険証などの性別の変更、婚姻問題など様々な課題は残されたままだ。

例えば、戸籍上の性別の変更を申し立てた訴訟は、これまでに認められた例はない。末村利人・早稲田大学教授(バイオエシックス)は「法律の改正など社会的制度的なサポート体制ができておらず、患者は手術後に法的なアイデンティティーの問題など苦しみを負うことになるのでは」と懸念を隠さない。

また、社会的、法的制度の整備について、石原明・神戸学院大学教授(生命倫理法学)は「性転換の問題に関して、社会全体の理解を得ることが必要」とし、「社会的に理解が広がっていけば裁判所も理解を示すようになるだろう。同時に、法的にも戸籍法の手直しや性転換に関する法律の整備を進めるべきだ」と話している

1998/5/13
読売新聞
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