社会の認知へ一歩
戸籍など課題なお山積
性同一性障害に悩む女性に対する性転換手術が埼玉医大の倫理委員会で承認された。性転換手術を治療行為と認めた同倫理委答申から2年、患者が手術を求めてからは6年が経過している。この間、関係者は患者に対して慎重に精神療法やホルモン療法を行ってきた。手術はその延長線上にある当然の治療行為といえる。一般には理解しにくい性の悩みが、肉体を傷つけてまで治療する必要のある「病気」であることを社会に提起した意義は大きい。
性同一性障書は、肉体的な性と自分が属していると認識している性が一致しない状態を指す。性的な嗜好を表す同性愛とは異なる。手術は肉体を改変することにより、肉体と精神の不一致をなくすことを目的としている。
性同一性障害は、女性で10万人に1人、男性で3万人に1人の割合で存在するといわれる。程度によっては、手術を必要としないケースもある。性を変えてしまえば、やり直しはできない。このため、手術が患者に本当に必要かどうか、事前に診断することが必要になる。
今回のケースでは、複数の精神科医が、男性として社会生活を送っている患者を5年以上にわたって慎重に観察し、自分の性に対してどのような違和感を覚えているのかなどを聞き取りしてきた。手術はこうした積み重ねのうえで初めて認められた。
埼玉医大は、社会的に全く認知されていなかった性同一性障害の問題を表に出した。しかし、現状はそうした「病気」の存在が知られただけだ。海外で手術を受けても、戸籍の性の変更は認められていない。戸籍を別の性に変えることは許されるのか。周囲の人たちが正しく理解し、偏見なく受け入れられるのか。社会は重い問いを突き付けられている。【高野聡】
生命倫理に詳しい三菱化学生命科学研究所の椒島(ぬでしま)次郎・主任研究員の話 性同一性障害を病気と認め、性転換手術以外の治療では治せないとした医学的な判断は評価できる。しかし、手術後に生じる戸籍の変更や結婚の可否、雇用など社会的な問題を含めて十分検討されたかどうかが重要だ。
1998/5/13
毎日新聞
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